トップ お薦めの映画 お薦めの本 名作アニメ お問い合わせ ブログ

ギリシャ神話

オルフェウスとエウリュディケ

オルフェウスは、世に類のない音楽家でした。
彼の音楽の技が巧みになるにつれ、彼が琴をひき歌うと、人間、動物だけでなく、樹木までが地面から根を引き抜いてついてくるようになりました。
そして、そこにはいつも一人の娘がいました。名をエウリュディケといいました。
彼には多くの女性崇拝者がいましたが、この娘を妻にしようと決心しました。
2人は結婚し、とても幸せにくらしていましたから、家を出ることもあまりありませんでした。

ある日、エウリュディケの姿を目にし、 その美しさの虜となった狩人アリスタイオスが、 彼女を我が手に抱かんとエウリュディケを追いかけてきました。
彼女は驚いて逃げましたが、そのとき草地にいた蛇の巣に踏み込んでしまい、怒った蛇たちにいっせいに噛まれて死んでしまいました。

妻の死を受け入れることのできなかったオルフェウスは、 亡くなったエウリュディケを取り戻すために一人、冥府の国へと降りて行きました。
黄泉の門を守護する三つ頭の番犬ケルベロスも 三途の川の渡し守カロンもオルフェウスの竪琴の音色と歌に心を動かされ、彼を通してしまいました。

冥界の王ハデスはおごそかな態度で待ち受けていました。
人間が勝手に冥界にやってくることは許されない、とのことでした。
オルフェウスは琴をとって歌い始めました。
オルフェウスの歌に感じいった女王ペルセポネは 眼に涙をためてハデスの説得に当たりましたので、とうとうハデスも妻の頼みを断りきれなくなってしまいました。

「お前の歌は王妃の心を動かした。言うがよい。願いはなんだ。」

「妻でございます。彼女をつれもどしとうございます。」

「それはならん。悪しき先例を作ることになる」

「ハデス大王、そうではございません。自然の根本は釣り合いでございますし、対照的なものを通じて理解や認識は生まれ、神々も自然の一部にほかなりません。輝かしい一つの慈悲は、未来永劫にわたって、残酷を正義だと思わせるでしょう。」

ハデスは立ち上がり、オルフェウスを見下ろして言いました。
「しぶといので有名なわしといえども、雄弁には心を動かされる。よいか、オルフェウス、お前の妻を返してやろう。お前の手にわたすから、自分で地上につれてゆくがよい。しかしその途中、一度でも、よいか一度でも、どんな理由にせよ、目指す方向から目をそらせて、もと来た道を振り返るならわしの慈悲は取り消され、妻はお前から取り上げられる。よいな。行け」

オルフェウスが歩き出すと、エウリュディケがすぐ後ろについてきました。
見えはしませんでしたが、そこにいると思いましたし、いることは間違いありませんでした。
足音が聞こえるような気がしましたが、草が生い茂り、よくわかりませんでした。
彼女のかすかな息を吸う音はわかりました。しかし苦しめられる霊の悲鳴でさわがしく、自信がもてませんでした。
それにしてもなぜ妻の足音はこんなにかすかなのでしょうか。いつもその軽やかさを愛してはいたのですが、今はもっとはっきりした音であってほしかったのです。

滝の音がごうごうと響いて、彼女の足音も、息も聞こえなくなりました。
しかし彼は心に彼女の姿を思い描きました。

ついに闇に切り裂く一条の光が見えました。
ついにエウリュディケを地上に連れ戻したのです。

しかし果たしてそうなのでしょうか。妻が後ろにいるという保証はあるのでしょうか。神を裁くことはだれにもできないし、うそをつかれても、告発することもできません。あの無慈悲なハデスがちょっとした音楽や涙で慈悲を与えるのでしょうか。
たかが夫の哀訴嘆願くらいで、寛大になって妻を返すものでしょうか。
彼は妻をつれずにもどってきたのではないでしょうか。
すべては無ではなかったのでしょうか。

急いで彼は振り向きました。
彼女はいました。
確かに彼女でした。
二人は腕を伸ばして抱き合おうとしましたが、その指先は虚しく空をつかみ彼女の手は煙となりました。
エウリュディケの姿はあっという間に見えなくなってしまいました。
地上から亀裂を通って吹き付ける風に煙は吹き散らされ、後には何も残りませんでした。


ボタン

ページトップへ

Copyright©Sena's Room
inserted by FC2 system